認知症と中国漢方

いかに弁証論治するか{続編}(菅沼伸・菅沼栄:東洋学術出版社)より引用

認知症は西洋医学では大まかに、@脳血管性認知症、Aアルツハイマー型認知症に分類される。
@の予防は脳血管の疾患を治療することで、中医学では活血法を用いることが多い。
Aの予防は脳の萎縮を補腎法を用いて治療し、できるだけ安定状態を維持し、病状の進行を食い止めることである。

認知症に対する中医病名
健忘証、うつ証、臓躁、不眠証、癲狂、呆証

病因病機
@?(お)血阻絡
 以下のような状況では血の流れが滞り?(お)血となる。?(お)血は脳の血絡を塞ぎ認知症を引き起こす。
 気虚で推動機能が減退する、ストレスから気滞が生じる、寒が血脈を収縮させる、出血疾患、加齢。
 西洋医学の動脈硬化症・高血圧・脳血管性疾患・高血脂症を併発する認知症は?(お)血の角度から治療を考えなければならない。
A腎虚精少
 腎は精を蔵し、精は髄を生み、髄は脳髄とつながっている。腎虚は主に腎精の不足を指すことが多く、腎精虚のため脳の髄海も空虚となり、脳の機能が低下する。
 慢性疾患による気の消耗・加齢などの原因から発生する認知症の多くは腎虚に属する。
B脾気不足
 脾胃は気血を生む源で後天の気と呼ばれる。脾胃が虚弱で全身の気血が不足し清気が上昇できないときは、五臓六腑の機能だけでなく脳の機能も低下する。
 胃腸虚弱・手術歴がある・慢性疾患による消耗・加齢などが考えられる人には健脾益気法を併用する。
C痰湿内薀
 痰湿は津液の流れが悪くなることによって生じた病理的な産物であり、各部位に停滞して各病証を引き起こす。痰湿は間接的に脳の疾患を引き起こし認知症に至らしめる。
 例えば、体重の増加・高血脂症の傾向などは、粘りのある痰湿(脂肪)の停滞によるものであり、痰湿が血の巡りを閉塞させ、?(お)血が発生して血脈が詰まると認知症の原因となる。
D肝鬱気滞
 ストレスは肝の疏泄機能を減退させ、肝鬱気滞の状態を引き起こし、気滞が長期化すると血?(お)となることがある。自分の老化現象に不安感・焦燥感を強く持ち続けることが、認知の症状を悪化させる原因となることがある。
 肝鬱は認知症の主原因ではないが、疏汗解鬱法を併用することにより、症状の改善を図ることが期待できる。

弁証論治
@?(お)血阻絡
 頭痛、物忘れ、疼痛、しこり、手足が痺れる、顔色が黒ずんでいる、舌色暗あるいは?(お)斑がある、脈渋。
 
当帰芍薬散冠心二号方(丹心方)桃核承気湯黄連解毒湯
A腎虚精少
 腰痛、健忘、眩暈、耳鳴り、聴力の減退、脱毛、歯が弱くなる、舌色淡、脈沈
 
六味丸八味地黄丸杞菊地黄丸麦味地黄丸海馬補腎丸参茸補血丸
B脾虚不足
 息切れ、疲労、風邪をひきやすい、健忘、不眠、顔色が白い、食欲不振、下痢しやすい、舌色淡、脈弱細
 
六君子湯補中益気湯帰脾湯
C痰湿内薀
 肥満体格、食欲不振、表情が乏しい、痰が多い、眩暈、舌体胖大、舌苔白膩、脈滑
 
半夏白朮天麻湯
D肝鬱気滞
 情緒不安定、憂鬱、イライラ、胸脇脹満、不眠、悪夢、ため息、集中力の低下、認知の症状は情緒の変動に影響されやすい、頭痛、眩暈、舌色暗、脈弦
 
加味逍遙散抑肝散柴胡加竜骨牡蛎湯釣藤散

食事療法
 しその葉(蘇葉)・ミカンの皮(陳皮)・はまなすの花(枚瑰花)・合歓花・菊花・しょうぶ

認知症の注意事項
@よい刺激を与える:趣味・会話を増やす、一日一回笑う、清潔・快適・過ごしやすい環境を作る
A頭を鍛える:両手で歯を磨く、両手で肩を揉む、髪の毛を梳かす(1日100回頭皮刺激)、歯を噛み合わせる(1日30回骨・腎を強める)
B飲食を調節する:薄味の食事、ゆっくり食べる、火を通した料理、温かい料理、気持ちよく食べる、衛生的な食事
C運動療法:朝、食後に散歩、体操、買い物・料理・掃除などの家事(労働)
D精神療法:欲張らない、活字・テレビを見すぎない、騒音や雑音を避け、人のうわさ話に立ち入らない
E自然療法:温泉、高山、はなを見る・香りをかぐ・花を食べる
 

  *「お」はやまいだれに於と書きます。