1 特別受益者制度
共同相続人の中で、被相続人から遺贈を受けたり、
生前に贈与を受けていた場合に
は、相続分の前渡しを受けたものとして、その受益部分につきその者の法定相続分
より控除する制度
2 すべての贈与が特別受益になるのか
⇒ 婚姻や養子縁組のため、あるいは生計の資本のための贈与のみこれにあたりま
す。
⇒ 贈与には死因贈与を含みます。
3 遺贈については目的を問わずすべて特別受益となります。
生前贈与については以下に注意してください。
(1)婚姻または養子縁組のための贈与
⇒ 被相続人から持参金・支度金等の名目でなされた金品の贈与がこれにあたりま
す。
⇒ 挙式費用については特に高額な場合には特別受益にあたるとする見解が有力で
す。
(2)生計の資本としての贈与
⇒ 居住用・事業用の不動産またはその資金の贈与が典型的な例です。
他に、会社設立や運転資金の贈与もこれにあたります。
⇒ 高等教育を受けさせるための財産上の給付(大学・大学院等の入学金・授業料
等)については、被相続人の扶養義務の範囲に属するか否かをその社会的地位・
資産状態等から判断し、その範囲を超えない限りは特別受益には当たらないと
するのが通説です。
4 生命保険金等の受領と特別受益
生命保険等本来的には相続財産に含まれないものについても共同相続人間の公平を
図る観点から被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人のうちの1人を
保険金受取人とした場合において、遺贈等と同様に扱うべきか?
⇒「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が、
民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであ
ると評価すべき特段の事情がある場合には、同条の類推適用があるとするのが判
例です。
⇒ 死亡退職金・役員功労金の名目で遺族に給付される財産の中には実質的には被相
続人に対する賃金の後払いの性格を有するものがありその場合には、被相続人の
遺産と同視すべきであるとして共同相続人中の一部の者のみが受取人に指定され
ている場合には特別受益に当たるとする学説は多い。
5 代襲原因発生前に代襲相続人が生前贈与を受けていた場合、この贈与も特別受益と
されるのか?
⇒ 相続分の前渡しとは言えないという理由から特別受益にはあたらないとするのが
実務です。
6 では代襲原因発生前に被代襲者が生前贈与を受けていた場合はどうでしょうか?
⇒ 特別受益にあたるとするのが実務です。
⇒ この場合には代襲相続人が被代襲者の特別受益の証明書を作成することになり
ます。
7 推定相続人になる前に生前贈与を受けていた場合はどうでしょうか?
例えば、被相続人Aがその子Bの内縁の夫Cに生計の資本として贈与をした後、BCが
婚姻し、それを機にAがCを養子にしたような場合です。
⇒ この場合特別受益になるとする審判例が多い。
8 相続人の配偶者・子に対し生前贈与をしていた場合はどうでしょうか?
⇒ 直接の相続人ではないから原則として特別受益者とはなりませんが、実質的にみて
相続人に対する贈与と同視すべき事情がある場合には特別受益になるとする場合が
あります。
9 特別受益証明書の作成者
特別受益者が作成する特別受益証明書については
⇒ 未成年者作成であっても(例えば17歳)、印鑑証明書を添付してあれば有効です。
⇒
成年後見人は成年被後見人の特別受益証明書を作成することができます。
⇒ 児童福祉施設の長は、当該施設に入所中の児童である未成年者のために同証明書
を作成できます。
⇒ 精神障害者の保護者は(親権者等でないかぎり)同証明書を作成することはでき
ません。
⇒
不在者財産管理人は同証明書を作成することはできません。
⇒ 親権者と未成年の子が共同相続人の場合、その未成年者が特別受益者である旨
の証明を親権者がするときは、特別代理人の選任を要しません。ただし、同証明
書作成の前提として、真に特別受益の事実があったことが必要です。
10 持ち戻しの免除
⇒ 持ち戻しの免除とは、特別受益については、その者の特別な取り分として認め、
残余の
相続財産について法定相続分の取得を認めるとする被相続人の意思表示を
いいます。
⇒ 特別受益については被相続人がその相続財産への持ち戻しを免除する意思を表示
していたときは、遺留分に反しない範囲でその効力があります。
⇒ 具体的には、遺贈または生前贈与した財産の価額を、相続財産から除外する(遺
贈の場合)または相続財産に加算しない(生前贈与の場合)旨の
遺言を残しておく
などがその方法です。
11 黙示の持戻しの免除が認められた例
⇒ 特別受益の持ち戻しの免除の意思表示には特に方式はなく黙示的になされたと
認められる場合であってもよいとされています。実際の例としては、
⇒ 心身に障害のある相続人に対し特にその扶養のため贈与がされたと認められる
場合
⇒ 被相続人が生前長男のみにその法定相続分をはるかに超える農地その他の
不動産
を贈与したが、自己が営んできた農業を長男に継がせる意思であった場合
⇒ 日付を欠くために無効であるがその自筆証書遺言に長男に全財産を譲渡する旨の
記載があるなどの事情の下では、持ち戻しの免除の意思が黙示に表示されていたと
した裁判例があります。
12 特別受益の確定手続き
⇒ 共同相続人間での話し合いが不調となった場合の問題です。
⇒ 具体的相続分の確認を求める訴えは確認の利益がないものとして不適法とするの
が判例です。
⇒ 従って、特別受益の有無につき争いがある場合には、遺産分割調停・審判におけ
る先決事項としてそれらの手続の中で考慮されることになります。
13 特別受益の評価の基準時
⇒ 特別受益となる贈与財産の価額は贈者の行為によって滅失あるいは価額の増減が
あっても、相続開始時において原状のままとみなして算定します。
⇒ 贈与財産が金銭であるときはその贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算し
た価額をもって評価します(判例)。
14 特別受益者を除いてされた
遺産分割の有効性
⇒ 具体的相続分のない特別受益者を除いて行われた遺産分割協議は有効とされて
います。
⇒ 特別受益証明書と遺産分割協議書を添付して相続登記を申請することになりま
す。
15 相続登記後に特別受益の存在が判明した場合
法定相続分に従って相続登記をした後に特別受益の存在が明らかとなり、そのため
に相続人の構成が変わり、または共同相続人の相続分が法定相続分と異なるものと
なったような場合です。
⇒ 原則として更正登記または登記の抹消をした上で改めて相続登記をやり直すこと
になりますが相続分を確定するためには
遺産分割協議をしなくてはならず 遺産
分割は相続開始時に遡って効力を生ずるものの分割協議前に現れた第三者の権利を
害することはできないとされているため(民909)、例えば法定相続分の相続登記
後相続人の債権者による差押の登記が入っているような場合には、差押債権者の
承諾を得て法定相続登記の更正または抹消をするか、「年月日遺産分割」を原因
とする持分移転登記をすることになります。
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